第5回 発生主義と現金主義

◆「発生主義」と「現金主義」の概念

会計処理には、「発生主義」と「現金主義」という二つの基本的な考え方があります。

国際会計基準に沿った会計では、基本的に発生主義が採用されています。しかし、タイでは税務上のルールとの関係から、発生主義と現金主義が混在する場面があり、この点にも注意が必要です。

まず、それぞれの考え方を簡単に整理してみましょう。

  • 発生主義……取引や経済的事象が発生した時点を起点として会計処理を行う考え方
  • 現金主義……実際に現金の受け渡しが行われた時点を起点として会計処理を行う考え方

名称から考えれば、それほど難しい概念ではありません。

しかし、実際のタイの会計では、一つの取引の中でも税目によって処理の基準が異なることがあり、システム上は注意が必要です。

◆InvoiceとWithholding Taxのタイとインドネシアの違い

例えば、商品を出荷してInvoiceを発行したとします。

インドネシアでは、Invoice発行時にWithholding Tax(源泉徴収税)に関する会計処理を行うケースがあります。つまり、取引が発生した時点を基準として処理するため、発生主義として捉えることができます。

一方、タイでは、Invoiceを発行した時点ではなく、そのInvoiceに対する現金を受領した時点でWithholding Taxの処理を行うケースがあります。

こちらは、現金の移動を基準としているため、現金主義の考え方になります。

この違いは、一見すると小さな違いに見えます。

しかし、Invoiceを発行した日と、実際に代金を受け取る日が異なる場合、会計処理を行うタイミングも変わります。

例えば、Invoice発行から数か月後に入金された場合、Invoice発行時点と入金時点のそれぞれで、どの税金をどのように処理するのかを正しく管理しなければなりません。

◆VATにも異なる考え方が存在する

さらに複雑なのが、付加価値税(VAT)です。

タイのVATでは、取引の内容によって処理の基準が異なる場合があります。

例えば、物品の売買については、基本的に取引の発生を基準としてVATを処理します。

一方、サービスについては、取引の内容や条件によって発生主義または現金主義の考え方が関係する場合があります。

つまり、タイでは、

「すべての税金を同じタイミングで処理すればよい」

という単純な仕組みにはなっていません。

取引の種類、税目、Invoiceの発行、入金など、それぞれの条件を考慮して処理する必要があります。

これがタイの会計システムを設計する際の難しさの一つです。

◆会計システムに求められるもの

このような違いがあるため、会計システムでは単純に「Invoiceを発行したらすべての会計処理を行う」という設計では対応できません。

例えば、

Invoice発行 → 売掛金計上 → 入金 → Withholding Tax処理 → 為替差損益処理

というように、一つの取引が複数のタイミングに分かれて処理される場合があります。

特にタイでは、Invoiceを発行した時点と実際に現金を受領する時点がずれることがあります。

さらに、外国通貨で取引を行っている場合には、その間の為替レートの変動によって為替差損益が発生します。

そのため、単に売上と入金を記録するだけではなく、Invoiceと入金を正しく紐付け、それぞれのタイミングで必要な税務・会計処理を行う仕組みが必要になります。

◆遅れるタイの国際会計化

では、なぜ国によって発生主義と現金主義の扱いが異なるのでしょうか。

その背景には、それぞれの国の税務制度や会計制度、そして国際会計基準への対応状況があります。

国際的には、企業の経済活動を正確に表現するため、発生主義を基本とする会計が広く採用されています。

一方、これまで見てきたように、タイの会計制度は**「国が税金を確実に徴収する」ことと強く結びついています。**

Withholding TaxやVATを含め、毎月の税務申告が厳格に運用されており、月次での会計処理や棚卸しも重要な業務となっています。

つまり、タイでは「決算のために毎月会計をする」というよりも、毎月の税務申告を正確に行うために、日々の取引を積み上げていくことが求められているとも言えます。

◆グローバル化とタイ会計のこれから

経済取引がグローバル化する中で、タイの会計制度が今後どこまで国際会計基準に近づいていくのかは、非常に興味深い問題です。

しかし、単純に「国際基準に合わせればよい」というわけではありません。

タイの会計制度には、VAT、Withholding Taxをはじめとする税務制度が深く組み込まれており、企業の会計処理と国の税収確保が密接につながっています。

そのため、国際会計基準への移行には、会計基準だけでなく、税務制度そのものとの整合性を考える必要があります。

タイの会計が国際会計へ近づいていくとしても、それは一気に変わるのではなく、税務制度とのバランスを取りながら徐々に進んでいくことになるでしょう。

タイで会計システムを構築するということは、単に日本や国際的な会計ルールを持ち込むことではありません。

タイ独自の税務と会計の仕組みを理解し、その上で国際会計との違いを吸収すること。

そこに、タイの会計システムを設計する難しさがあるのです。