第2回 マスター構築――特に重要な品目マスターと部品表

◆生産管理の出発点となるマスター

マスターとは、業務を遂行するために企業内で使用する、基礎となる情報データのことです。

商品や原材料、顧客、仕入先、従業員など、企業のさまざまな業務に応じて多くのマスターが存在します。

生産管理においても、マスターの構築は必要不可欠です。

むしろ、これから生産管理を始めようとするのであれば、マスターを正しく構築することが最初の重要な仕事になると言っても過言ではありません。

タイで生産活動を行う場合、最低限必要となる基本的なマスターとして、次の4つが挙げられます。

  1. カスタマーマスター(顧客)
  2. サプライヤーマスター(仕入先)
  3. アイテムマスター(品目)
  4. ストラクチャーマスター(部品表・BOM)

①のカスタマーと②のサプライヤーは、それぞれ販売先と購入先に関する情報です。

そして、生産管理を構築するうえで特に重要になるのが、③の品目マスターと④の部品表です。

◆品目マスターは生産管理の土台

品目マスターには、購入品、原材料、仕掛品、完成品など、生産活動に関わるさまざまな品目を登録します。

企業の規模によっては、その登録点数が10万点を超えることもあります。

10万点もの品目を一つひとつ正確に登録する作業は、決して簡単ではありません。

しかし、ここが正しく構築されていなければ、その後の生産管理を正しく行うことはできません。

品目マスターは、生産管理システムの土台なのです。

品目番号、品名、単位、品目区分などの基本情報だけでなく、購入品なのか、製造品なのか、どのように在庫を管理するのかなど、生産活動に必要となる情報を正確に設定する必要があります。

◆部品表は「生産の構造」を表す

品目マスターを構築した次に重要になるのが、部品表(Structure BOM)です。

部品表では、品目マスターに登録された原材料、部品、仕掛品、アッセンブリ、完成品などを、生産工程の構造に沿って関連付けていきます。

つまり、

「何を使って、何を作るのか」

をシステム上に明確にするのです。

原材料や購入部品がどこで使用され、それがどの仕掛品となり、最終的にどの完成品になるのか。

この関係をツリー構造として表現することで、生産の流れを一目で把握できるようになります。

そして、部品表が整備されることで、生産計画、所要量計算、在庫管理、原価管理など、さまざまな業務がつながっていきます。

つまり部品表は、単なる部品の一覧表ではありません。

企業の「ものづくりの構造」そのものをデータとして表現したものです。

だからこそ、部品表はしばしば**「生産管理の命」**とも表現されるのです。

◆タイではマスター構築そのものが大きな課題になる

ところが、タイではこのような生産管理のためのマスター構築に慣れている人材が、必ずしも多くありません。

これまでのタイの製造現場では、月ごとに棚卸を行い、実際の在庫と帳簿上の在庫を合わせるという管理方法でも、ある程度業務を運用することができました。

しかし、生産計画やMRP、工程管理、原価管理まで含めた本格的な生産管理を行うためには、それだけでは不十分です。

品目を正しく定義し、その品目同士を部品表によって正確につなげる必要があります。

ところが、こうしたマスター構築の経験を持つ人材は少なく、登録作業には多くの時間と労力が必要になります。

さらに、登録ミスが発生すると、その後の生産計画や在庫、原価計算など、さまざまなところに影響が及びます。

そのため、入力作業だけではなく、登録内容をチェックする仕組みと体制も必要になります。

◆タイで生産管理を始めるために

タイに進出して、生産管理システムを導入しようとすると、多くの場合、すぐにシステムを動かすことを考えがちです。

しかし、実際にはその前にやらなければならないことがあります。

それが、「自社では何を、どのように管理したいのか」を明確にし、そのためのマスターを構築することです。

品目マスターと部品表を正しく作ることによって、初めて製品の構造と生産の流れがシステム上に姿を現します。

そして、その情報があって初めて、生産計画、在庫管理、原価管理、さらには会計までを一つの流れとしてつなげることができます。

生産管理システムの導入とは、単にシステムを購入することではありません。

まず、自社の「ものづくり」を正しくデータ化すること。

その最初の一歩が、品目マスターと部品表の構築なのです。