第8回 在庫の種類とロット別在庫について

◆目的によって異なる「在庫」の種類

一口に在庫といっても、生産管理や会計では、その目的に応じていくつかの異なる在庫概念があります。

代表的なものとして、次のようなものが挙げられます。

  • 現在在庫:システム上でリアルタイムに確認できる現在の在庫
  • 棚卸在庫:棚卸によって現品を確認した実際の在庫(月次在庫)
  • 有効在庫:今後の生産や販売に実際に利用できる在庫
  • 理論在庫:将来のある時点において計算上想定される在庫
  • 在庫台帳(Stock Card):入出庫の履歴を記録した在庫管理上の台帳

同じ「在庫」という言葉でも、それぞれ意味と利用目的が異なります。

◆有効在庫

これらの中でも、生産管理において特に重要なのが有効在庫です。

有効在庫は、MRP(資材所要量計画)において利用される重要な概念で、

有効在庫 = 現在在庫 + 発注残(生産残)- 消費予定数 - 安全在庫

という考え方で計算します。

ここでいう発注残とは、Purchase P/Oが発行され、今後入庫する予定の数量などを指します。

また、生産残とは、生産指示が発行されているものの、まだ完成していない数量などを指します。

つまり、現在倉庫にある数量だけを見るのではなく、

「これから入ってくる数量」
「これから消費する数量」
「安全在庫として確保しておく数量」

まで考慮して、実際に利用可能な在庫量を判断するのです。

これは、将来の材料不足を予測しながら生産計画を立てるMRPにとって、非常に重要な考え方になります。

◆理論在庫

理論在庫は、有効在庫の考え方をさらに将来へ展開したものと考えることができます。

例えば、

「1か月後には、この品目の在庫はどれくらいになるのか」

といった、将来のある時点における在庫数量を計画上で算出する場合に利用されます。

生産計画や資材計画を立てるうえでは有効な考え方ですが、すべての品目に適しているわけではありません。

特に、受注数量や発注量の変動が大きい品目では、将来の在庫を正確に予測することが難しくなります。

そのため、理論在庫は利用する目的と対象品目を考えたうえで、適切に使う必要があります。

◆在庫台帳(Stock Card)

タイの製造業において特徴的なのが、**Stock Card(在庫台帳)**です。

Stock Cardは、入庫・出庫などの在庫の増減を記録し、在庫数量の推移を確認するためのものです。

特にタイでは、会計・税務上の管理においても重要な意味を持ちます。

つまり、単に「現在何個あるか」を確認するだけではなく、

「いつ、何が入庫し、いつ、何が出庫し、その結果として現在の数量になったのか」

という在庫の履歴を確認できることが重要なのです。

生産管理上の在庫と会計上の在庫を結び付けるという意味でも、Stock Cardは重要な役割を持っています。

◆ロット別在庫

もう一つ重要な在庫管理の考え方が、ロット別在庫です。

ロット別管理は、医療機器、医薬品、食品など、トレーサビリティ(追跡可能性)が特に重要な製造現場で多く採用されています。

原材料の段階からロットNo.を付与し、その原材料がどの製品や中間品の生産に使用されたのかを、システム上で一貫してひも付けて管理します。

例えば、

「この完成品は、どの原材料ロットを使って作られたのか」

を追跡できるようにするわけです。

これにより、製品に不良が発生した場合でも、

「どのロットの原材料が原因だったのか」

を追跡することが可能になります。

反対に、特定の原材料ロットに問題が発見された場合には、

「そのロットを使用して作られた製品はどれなのか」

を追跡することもできます。

これがロット別在庫管理におけるトレーサビリティの重要な役割です。

◆ロット管理は原価にも影響する

ロット別管理の意味は、品質管理やトレーサビリティだけではありません。

同じ品目であっても、購入した時期によって仕入価格が異なる場合があります。

ロットごとに原価が異なれば、そのロットがどの製品に使用されたかによって、製品の原価計算にも影響します。

つまり、ロット管理は、

在庫管理 → 生産管理 → 品質管理 → トレーサビリティ → 原価管理

までつながっているのです。

◆ロット別在庫は「管理したい」だけでは運用できない

一方で、ロット別在庫管理は、実際の運用が非常に難しい管理方法でもあります。

すべての原材料、仕掛品、完成品をロット単位で正確に追跡するためには、現場での入力や現品管理を徹底しなければなりません。

ロットNo.が正しく記録されていなければ、後から追跡することはできません。

そのため、タイの製造業においても、ロット別管理を導入していても、十分に機能させることができている事業所は決して多くありません。

ロット管理を本当に機能させるためには、

どこまでロット管理するのかを事前に明確にし、現場の運用方法を綿密に検討したうえで、適切なシステムを構築すること

が必要になります。

ロットNo.を付けるだけでは、ロット管理にはなりません。

購入した資材から中間品、完成品までを正しくひも付け、現品票やシステム上の履歴として一貫して追跡できて、初めてロット別在庫管理が意味を持つのです。