第15 回 海外で重要な単純化の最適化

◆海外では日本と同じ業務設計が通用するとは限らない

海外で事業を展開するとき、大きな課題の一つとなるのが、日本と現地との仕事の進め方や生産性の違いです。

日本では、高度経済成長の中で生産現場の高度化やシステム化が進み、従業員一人ひとりのスキルを高め、複数の業務を効率的にこなすことが求められてきました。

しかし、海外では歴史や文化、教育、企業での仕事の経験などが異なります。

「会社で働くとはどういうことなのか」という基本的な考え方から、日本とは異なる場合もあります。

そのため、日本でうまく機能している業務の仕組みを、そのまま海外へ持ち込めばよいとは限りません。

海外では、現地の人材や業務環境に合わせて、仕事そのものを設計し直すことが重要になります。


◆多機能化は混乱の原因になる

海外の生産現場では、従業員の経験やスキルにばらつきがあることも少なくありません。

このような環境で、最初から一人の担当者に複数の複雑な業務を任せたり、多くの機能を覚えてもらおうとすると、かえって混乱を招くことがあります。

そこで重要になるのが、業務の単純化です。

例えば、

  • 在庫管理を担当する
  • 販売処理を担当する
  • Invoiceを発行する
  • Receiptを発行する
  • 購買処理を担当する

というように、業務をできるだけ明確に分けます。

複雑な仕事を一人に集約するのではなく、一つひとつの仕事を分かりやすくすることが、海外での業務運用では重要になります。

日本で行われている業務スタイルをそのまま持ち込むことが、必ずしも生産性の向上につながるとは限りません。

むしろ、現場が対応できないほど複雑にしてしまえば、入力ミスや業務の停滞を招き、結果として生産性を低下させることにもなります。


◆業務を単純化する

業務を単純化するということは、単に仕事を細かく分けることではありません。

重要なのは、一人ひとりが何を担当し、どこまで責任を持つのかを明確にすることです。

例えば、

「この人は在庫を管理する」
「この人は販売処理を担当する」
「この人はInvoiceを発行する」

というように、担当する業務と責任範囲を明確にします。

一つひとつの仕事が単純であれば、教育もしやすくなり、担当者が変わった場合にも引き継ぎやすくなります。

これは、海外で人材が入れ替わることを考えても重要な考え方です。


◆単純化した業務を「最適化」する

しかし、業務を単純化するだけでは十分ではありません。

個々の業務を細分化すると、今度はそれらをどのようにつなげるかという問題が発生します。

在庫担当、購買担当、生産担当、販売担当、会計担当が、それぞれ自分の仕事だけを行っていては、会社全体としてうまく機能しません。

そこで必要になるのが、単純化された業務を有機的につなぎ、全体として最適化することです。

これがマネジメントの役割です。

個々の担当者には見えにくい、

「自分の仕事が、その後どの業務につながっているのか」

を理解し、全体を調整する人材が必要になります。

つまり、

業務は単純化する。
しかし、会社全体の仕組みは単純化してはいけない。

ここが重要なポイントです。


◆単純化と最適化はセットで考える

単純化すると、個々の担当者は仕事を理解しやすくなります。

しかし、単純化しすぎると、今度は担当者同士のつながりが見えなくなります。

そこで、

個々の業務は単純化する。
業務と業務のつながりはシステムで管理する。
全体の最適化はマネジメントが行う。

という考え方が重要になります。

これは、海外でシステムを導入するときにも非常に重要です。

システムに多くの機能を詰め込んで一人の担当者に操作させるのではなく、現場の一つひとつの業務はできるだけ分かりやすくし、それらをシステムによってつなげるという考え方です。


◆属人的な組織から、つながる組織へ

この考え方は、会社組織をどのように作るかという問題にもつながります。

一部の優秀な人材に多くの仕事や判断が集中する、いわゆる属人的な組織では、その人が退職したり不在になったりしたときに、業務全体が止まってしまう危険があります。

特に海外では、人材の入れ替わりを完全になくすことはできません。

だからこそ、

「誰か一人がいなければ仕事ができない」

という状態をできるだけ避ける必要があります。

一人ひとりの仕事を単純化し、責任範囲を明確にし、それらを横につなげていく。

そうすることで、特定の個人に依存しない、変化に強い組織を作ることができます。


◆突然の離職にも耐えられる組織

タイで事業を行う場合、突然の離職などによって担当者が入れ替わることもあります。

このとき、仕事が完全に属人化していると、その人が持っていた知識や経験まで失われてしまいます。

一方で、

業務を単純化する
→ 担当と責任を明確にする
→ 業務のつながりを標準化する
→ システムに記録を残す

という仕組みができていれば、担当者が変わっても業務を継続しやすくなります。

海外で重要なのは、一人ひとりの能力を最大限に引き出すことだけではありません。

人が変わっても会社が動き続ける仕組みを作ることです。


◆「単純化」と「最適化」は相反しない

海外の業務設計で重要なのは、単純化と最適化を対立するものとして考えないことです。

個々の仕事はできるだけ単純にする。

しかし、それぞれの仕事を会社全体として最適につなげる。

つまり、

「仕事は単純化し、仕組みは最適化する。」

これが、海外で安定した業務運営を行うための重要な考え方になります。