第14 回 システム導入選定におけるパターン

タイで事業を開始するとき、どのようにシステムを選定するかは非常に重要です。

実際にシステムを使うのは現地のスタッフです。一方で、日本の本社からは管理面や会計面、生産管理面など、さまざまな要求が出てきます。

そのため、**「誰がシステムを選ぶのか」**によって、導入されるシステムの方向性は大きく変わります。

ここでは、タイでよく考えられるシステム選定のパターンを4つに分け、それぞれの特徴と注意点を整理します。

◆パターン① タイ現地スタッフ主体で選定

実際にシステムを運用するのは現地で働くスタッフなのだから、現地スタッフが主体となって選定するのがよいという考え方です。

この場合、現地法人の日本人スタッフは承認や確認を行い、日本の本社は最終的に追認するという形になります。

確かに、実際に入力や運用を行うスタッフが主体となることで、導入後のシステムに対して前向きに取り組んでもらえるというメリットがあります。

しかし、この方法には大きな前提があります。

それは、システムを選定するスタッフが、生産管理や会計など必要な業務知識を十分に持っていることです。

特に注意したいのが、会計担当者が選定の中心となるケースです。

タイの現地法人では、会計担当者がシステム選定に大きな影響力を持つことがあります。しかし、会計に詳しいことと、生産管理に詳しいことは別の問題です。

その結果、会計処理には強いものの、生産管理が十分に考慮されていないシステムになってしまう可能性があります。

会計を中心にシステムを考え、生産管理が後回しになる。

これが、このパターンの大きなリスクです。

また、選定プロセスの透明性が十分でない場合には、選定そのものに別の問題が入り込む余地もあります。

したがって、現地スタッフ主体で選定する場合には、選定者が必要な業務知識を持っているかを事前に確認することが重要です。

◆パターン② 現地駐在の日本人主体で選定

現地法人で働く日本人駐在員が主体となってシステムを選定し、タイ人スタッフの意見は参考とする方法です。

現地の製造現場を理解している日本人が選定するため、日本の本社にとっても一定の安心感があります。

また、日本人同士で意思疎通を図りやすく、コンセンサスを取りやすいというメリットもあります。

実際には、このパターンは比較的多い選択肢でしょう。

しかし、ここにも問題があります。

タイに駐在する日本人は、限られた人数で現地法人を運営しているケースが多く、製造業であれば製造現場に詳しい人が中心になることが少なくありません。

一方で、システム導入には、

  • 生産管理
  • 会計
  • 在庫管理
  • 原価管理
  • 税務
  • 情報システム

など、複数の分野の知識が必要になります。

つまり、

生産管理には詳しいが会計には詳しくない。

あるいは、

会計には詳しいが生産管理には詳しくない。

という状況が生じやすく、生産管理と会計の両方を理解してシステム全体を判断できる人材は、決して多くありません。

さらに、日本人が良いと思ったシステムであっても、実際に操作する現地スタッフが納得していなければ、導入後の運用がうまくいかない可能性があります。

システムは、選定する人だけでなく、実際に使う人が受け入れられるものであることも重要です。

◆パターン③ 日本の本社主導で選定

日本の本社から、

  • 生産管理部門
  • 経理・財務部門
  • 情報システム部門

などがシステム選定に関与する方法です。

この方法では、日本の本社側で十分な検討が行われるため、システムの完成度や管理精度という面では大きなメリットがあります。

また、本社内でコンセンサスを取りやすく、導入に対する責任の所在も明確になります。

しかし、ここで問題になるのが、「日本で良いシステム」と「タイで運用できるシステム」は必ずしも同じではないということです。

日本の業務やシステムを基準に考えると、タイの現地事情が十分に考慮されないまま、日本と同じ水準の運用を要求してしまうことがあります。

しかし、タイでは、

  • 人材
  • 業務習慣
  • 会計・税務
  • ドキュメント管理
  • 在庫管理
  • システムへの入力習慣

など、日本とは異なる条件があります。

日本では問題なく運用できる仕組みであっても、タイでは現場が対応できず、結果としてシステムが十分に使われなくなる可能性があります。

つまり、

システムの水準を上げることと、現場が運用できることは別の問題です。

現地事情を考慮せずに日本の仕組みをそのまま持ち込むことには注意が必要です。

◆パターン④ コンサルタントによる選定

専門的な知識を持つコンサルタントにシステム選定を依頼する方法もあります。

いわゆる「餅は餅屋」という考え方です。

RFP(Request for Proposal:提案依頼書)を作成し、複数のベンダーから提案を受け、コンペや相見積もりによって選定する方法も考えられます。

一見すると合理的な方法ですが、海外、特にタイで行う場合には注意が必要です。

まず、タイの市場、現地の業務事情、システム、さらに日本企業の生産管理まで理解しているコンサルタントは限られます。

また、日本国内で一般的なRFP方式や「見積もりは無料」という商習慣が、そのままタイで通用するとは限りません。

コンサルティングそのものに費用が発生する場合もあるため、契約条件や業務範囲について、事前に明確にしておく必要があります。

コンサルタントに依頼すれば必ず成功するわけではなく、そのコンサルタントがタイの現実と日本企業の業務の両方を理解しているかが重要になります。

◆最も重要なのは「誰が選ぶか」ではなく「誰が調整できるか」

ここまで4つのパターンを見てきましたが、どの方法にもメリットとデメリットがあります。

  • タイ現地だけで選べば、生産管理が不足する可能性がある。
  • 現地日本人だけで選べば、会計や現地運用が不足する可能性がある。
  • 日本本社だけで選べば、タイの現実から離れる可能性がある。
  • コンサルタントに任せれば、そのコンサルタントの知識と経験に左右される。

つまり、誰か一方にすべてを任せればよいという単純な問題ではありません。

重要なのは、

日本の生産管理を理解している。
タイの現地事情を理解している。
会計・税務を理解している。
そして、実際に運用する現地スタッフとも意思疎通ができる。

こうした複数の立場をつなぎ、全体を調整できる人材がいることです。

◆生産管理と会計を切り離して考えない

そして、もう一つ重要なのが、生産管理と会計を別々のものとして考えないことです。

タイの製造業では、

生産 → 在庫 → 出荷・購買 → 原価 → 会計

という流れが密接につながっています。

したがって、単に「生産管理システムを導入する」「会計システムを導入する」というだけではなく、生産現場で発生した実績が、正しく在庫や原価、そして会計につながる仕組みを考える必要があります。

システム選定において最も大切なのは、機能表を比較することだけではありません。

自社の業務を理解し、日本とタイの違いを理解し、現場で実際に運用できる仕組みを作れるか。

そこまで考えてシステムを選定することが、海外でのシステム導入を成功させるための重要なポイントになります。