第11回 バーコードシステムについて

◆どんなところにバーコードシステムを利用可能か バーコードシステムは、入力の精度向上や入力工数の削減のために利用されています。 バーコードシステムが適用されるのは、以下のような処理です。 ①生産実績の入力(良品数、不良数、消費数、生産時間など) ②出荷実績の入力 ③棚卸在庫の入力 ③資材の払出しの入力 ⑤購入品・外注品の受入数入力 ◆ハンディスキャナーの種類 ハンディスキャナーは、大別して3種類あります。使用方法と目的に合わせて選択する必要があります。 ①Windows OSを内蔵するハンディスキャナー。かなり高価ですが、直接データベースと無線LANで接続します。リアルタイムの処理が可能です。 ②専用OSを内蔵したハンディスキャナー。Textファイルよりシステムに取込みます。リアルタイムにデータ取込みができません。 ③携帯電話の端末よりデータ入力。携帯端末ですので安価ですが、リアルタイムにデータ取込みができません。将来性は大変有望です。 ハンディスキャナーは特性がありますので、ソフトウエアの会社と良く相談する方がよいです。 ◆バーコードシステムでの落とし穴 よくバーコードシステムで失敗した例を耳にします。そのほとんどがシステムの目的を見失った例です。 バーコードシステムの目的が生産管理なのか、製造管理なのか、品質管理なのかです。 それぞれ戦略が違うのに、バーコードシステム中にすべて押し込んで、運用ができなくなってしまうのです。 生産管理、製造管理、品質管理それぞれ収集したデータのフィードバックする部署が違うからです。 生産管理におけるバーコードシステムの役割は、在庫管理と実際原価にデータを反映することです。最終的には会計に反映します。 製造管理におけるバーコードシステムの役割は、設備稼働率、製造条件、品質条件などを製造現場に反映することです。 このように目的に応じてバーコードシステムを構築する必要があります。

第12回 標準原価と実際原価

◆原価管理の役割 原価管理としての役割は、標準原価を定期的に計算し、実際原価との差異を計算しその原因を追究して経営情報につなげる。 最終的には会計情報につなげる必要があります。 ところが海外では在庫把握でさえできていない企業がほとんどで、とても原価管理まで到達できていないのが現状です。 特に、実際原価計算に必要な資材在庫金額(RM Raw Material)・完成品在庫金額(FG Finished Goods)・中間仕掛品在庫金額(WIP Work in Process)の在庫金額の把握はほとんど出来ていません。 ◆まずは標準原価から 標準原価では、原価構成の中でも直接経費や間接経費を算出する必要があります。どのように計算するかは企業によって異なります。 直接経費は作業者のチャージ金額×1単位生産する標準作業者工数で決まります。 海外では資材の場合、海外から購入する場合は為替レートを考慮して標準原価を決める必要があります。 ◆難易度の高い実際原価 実際原価では、想定の標準作業者工数で計算するのに対し、実際作業者工数から計算しなければなりません。 すなわち、生産実績として作業時間と作業者工数をコンピュータに入力しなければなりません。これは大変なことです。 この作業時間を把握するためにバーコードシステムなどの導入が進んでいます。 実際の在庫金額は会計に反映されます。

第13 回 ロット別在庫とロットトレース

◆ロットトレースの目的 ロットトレースの目的は、出荷された品目に何らかの品質上の問題が発生した時、生産ロットまたは原材料ロットを追跡し他のロットの影響状況を調査することです。 そして、ロットの影響状況が広範囲に及ぶ場合、製造会社の存続さえ脅かされることさえあります。したがって、ロットトレース機能の重要性は言うまでもありません。 ◆ロットトレースを実現するための前提条件 ロットトレースを実現するためには、ロット別在庫管理が必須となります。ロット別在庫をシステム上で実現するために以下のようなこと実行しなければなりません。 ・原材料の入庫時に仕入先のロットNo.または受入ロットNo.と受入数をシステムに登録する。同時にロットNo.別に現品票を添付する。 ・生産完了時に使用された原材料と仕掛品のロットNo.と生産実績数をシステムに登録する。同時に生産ロットNo.別に現品票を添付する。 ・出荷時に完成品のロットNo.と出荷実績数をシステムに登録する。同時に出荷ロットNo.を出荷ラベルに添付する。 このように実績数とロットNo.常に入力する必要があるばかりでなく、ロット別に在庫管理と現品票を在庫ロットに添付する必要があります。 運用レベルはかなり高くなります。 ◆生産管理システムに求められるもの ロット別在庫管理の運用レベル高いがゆえに生産管理システムに求められるものも高度になります。 ・システムがロット別在庫に対応していること。言うまでもありませんが。 ・ロットNo.の入力が簡単に出来ること。このためにバーコードシステムを利用することも有効です。 ・原材料ロットNo.と生産ロットNo.別の現品票をシステムから印刷できること。 ・出荷ロットNo.別の出荷ラベルをシステムから印刷できること。 ・ロットトレース機能をシステムが対応していること。完成品ロットからの正展開トレースと材料からの逆展開トレースが可能なこと。 以上のようなことがシステム要件ですが、それ以上にロット別在庫管理ができる運用体制が重要です。 このようにロットトレースと言っても、十分な準備をもって取組む必要があります。

第14 回 システム導入選定におけるパターン

タイで事業を開始する時、皆さんはどのようにシステム導入をされていますか。 タイ人任せ?それとも日本の本社の意向が色濃く反映される?そのような時に起こりうる短所と長所をまとめてみました。 ◆パターン①「タイローカル主体で選定」 システムを実際に運用していくのは現地で雇用されたタイ人。端末入力を行うタイ人が選ぶのが一番いいという考え方です。 この場合、現地法人の日本人スタッフは承認の権限のみ。日本の本社は追認というのが基本的な構造です。 確かにそういった効用もあるでしょう。その方がタイ人スタッフも前向きにシステムに向き合うかもしれません。 ただし、それはタイ人の選定者に一定の知識があるという前提が必要になります。求められる専門の知識があるのかを日本人が見定めなくてはなりません。 さらに、このケースでは事業所の会計担当者の意向がどうしても強くなりがちです。 しかしながら、タイ人の会計担当者が生産管理にまで通じている例は極めてまれです。 その結果、生じるのは会計寄りのソフトウエアになってしまうということ。生産管理が後手に回るという現象が起こりうるのです。 場合によってはバックマージンが介在する余地すら生まれます。 ◆パターン②「現地日本人主体で選定」 現地法人で働く日本人が主体となって選定し、タイ人スタッフの意向は参考意見にとどまるというのがこの区分です。 現場にある程度通じた駐在日本人が選ぶわけですから、日本の本社にも一定程度の安心感はあるでしょう。 日本人同士のコンセンサスも取れ、最も多い形態であるかもしれません。 ただ、ここで問題が一つ生じます。 日本から送られて来る現地駐在員は、労働許可証やビザなどの関係もあり最低限の人数。製造業なら製造の現場のみに通じた人がほとんどで、会計にまで精通した人も合わせて派遣される事例はあまり多くはありません。 生産管理と会計の両方に詳しい人が少ないというのが、このケースでのデメリットとして存在するのです。 さらに、せっかく現地の日本人が選んでも、それをタイ人スタッフが受け入れ、前向きに受け止めてくれるかは不透明です。 タイ側が求めるものと違うものが導入された場合、トラブルが起こりうる確率は決して低くはありません。 ◆パターン③「日本の本社主導で選定」 システムの選定に、日本の本社の生産管理、経理、情報システムの各担当者がすべからく関与するというのがこの区分です。 現地からの情報もある程度は参考にするでしょうが、それでも情報システム部門が関わる以上、日本の本社で採用される「日本基準」が導入される可能性は極めて高くなるということができます。 日本人スタッフ同士のコンセンサスも得やすく、責任も生まれ、システムは間違いなく精度が高く芯を捉えたものとなるでしょう。 生産性の向上にも寄与し、企業活動にも一段と弾みがつくと期待されることでしょう。 ただ、現実にそのように進むかは不透明です。懸念される問題として、導入される「日本基準」にタイ側が付いてこられるかという問題があります。 タイにおけるシステム水準は、まだ日本のそれに及ばず、その差は歴然です。タイ側でシステムがうまく稼働させられず、事業に影響が出ないとも限りません。 現地の事情を考慮しないことが背景にあります。 ◆パターン④「コンサルタントによる代行選定」 「餅は餅屋」とあるように、専門的な知見を持つコンサルタントにシステム導入を依頼し、その見解を受けて決定するという選択もあります。 一見したところ、確かにそれもうなずけます。その場合、提案依頼書(RFP=Request For Proposal)を提出してもらい、場合によってはコンペや相見積もりを実施するといったケースなどが考えられます。 この場合、タイの市場やシステムに精通したコンサルタントが豊富に日本国内に存在するとは考えられず、当然に選択肢として挙げられるのは、タイにあってコンサルタント業務をおこなっている専門家ということになります。 実際、タイには少なくないこうした業務を生業しているコンサルタントが存在します。 しかしながら、注意しなければならないのは、海外特にタイではRFPを採用した選定方法が必ずしもメジャーではないという点です。 マイナーと言っても過言ではありません。しかも、日本国内のように「見積もり無料」というケースもあまり見受けられません。後日、請求書が届きトラブルとなった例も後を絶ちません。 結局のところ、タイに精通した日本人がいて、日本のシステムの専門家が関与し、さらにはタイローカルとのコンセンサスが可能な環境の中で選定を進めていくというのが、最も失敗の少ない選択肢なのではないでしょうか。 そのうえで、会計と生産管理が連動しているシステムづくりがベスト。パターン①~④で上げたさまざまな問題を調整できる人材がいることがさらに望ましいと言えるでしょう。

第15 回 海外で重要な単純化の最適化

◆現地従業員と日本人と異なる作業効率や生産性 海外で事業を展開するとき、大きな悩みのタネとなるのが、現地従業員と日本人との作業効率や生産性の違いです。 生産現場の高度化・システム化で高度経済成長を乗り越えてきた日本では、従業員一人一人のスキルをどのようにアップし、それぞれが抱える複数の業務をどのように最適化できるかに関心が向けられてきました。 ところが、ここはタイ。歴史や文化も異なれば、会社で働くということはどういうことなのかといった考え方一つから大きく異なっています。 ◆多機能化は混乱の原因 生産現場の未成熟な海外の市場では現場や個々人の能力に差があるため、まず業務を可能な限り単純化することが求められます。 複雑な組み合わせや多機能化は混乱の原因となりますので御法度。 日本にある業務スタイルを海外にそのまま持ち込んでも現場がこなせないばかりか、生産性の減退にもつながりかねません。 ◆業務の単純化 タイなどの海外の市場にはそれぞれの現場にあった業務のあり方があり、それがまさに単純化というわけなのです。 在庫管理だけ、販売だけ、Invoiceや領収書を発行するだけ。 そういった細分化された仕事を一人一人に対し、責任とともにキチンと割り振ることができるかに成否がかかっていると言えるでしょう。 ◆単純化された業務の最適化 もちろん業務を細分化するだけでは十分ではありません。 今度は、これら細分化された業務や人を有機的に機能的に結びつけて、最適化する作業が必要となってきます。 これが、いわゆるマネジメント。単純作業を繰り返すだけのスタッフには見えない機能的なつながりを理解できる人材が、次ぎに必要となってくるのです。 ただし、こうした人材は一朝一夕に確保することはできません。中長期的な視野に立って、採用の計画を立てる必要があります。 ◆会社組織は縦割りか横割りか 以上の論点は、会社組織は縦割りであるべきか、横割りであるべきかという議論にも通じてきます。 ある一握りの職人に業務が集中するような属人的な縦割り組織では、一時的ではあれ、会社は永続的にはもちません。 単純化された個々の横の組織が柔軟に有機的につながりあっていくことで、変化に強い本当の組織作りができると言えるのです。 このことは、突然のタイ人離職に対しても大きな効果を発揮します。